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監督座談会

監督の目、部員の想い。

〈まずは心構えから始めたら、部員たちの目が輝きを増した。〉

鈴木氏(以下敬称略)

コロナ禍で監督に就任して以来、制約の多い2年間でした。幸い昨年は高等部の合宿のみ実施されましたが、試合も無観客の状況で、これまで応援に駆けつけていたOB・OGも現役部員たちの活躍を見る機会をもつことができませんでした。OB会も同じ状況で、現役部員たちの姿をOB・OGの方々へ上手くお伝えすることができませんでした。まずは高等部、中等部ラグビー部の現在の状況を教えていただけますか。

依田氏(以下敬称略)

高等部ラグビー部は現在、1・2年生による新チームが選手17名(留学中2名:夏に帰省予定)、マネージャー2名の計19名でスタートしています。1月9日の新人戦では1週目に勝ち、その翌週早稲田実業との試合が予定されていましたが、1名が体調不良で14名になり、残念ながら棄権。いまは舘キャプテンを中心に、春の大会ではベスト16、秋はベスト8を目指し、「江戸川陸上競技場で試合をしたい!」というところを目標にスタートしています。例年に比べ、体の大きい子や力の強い子などフォワードの選手が多いので、彼らが少しでも多くボールを持てるよう、バックスの展開ラグビーというよりは、モールやスクラムを少し強化するところにフォーカスを当て指導しています。

鈴木

それはひとつのラグビーの戦い方の目標として「フォワードにボールを持たせて」という監督の作戦なのでしょうか? それとも現在の部員の資質的なことなのでしょうか?

依田

後者の方ですね。大きく展開していくよりは、選手の特性を見て、ちょっと狭いスペースの中で、強い選手にどんどんボールを持たせるというところです。

鈴木

高等部の練習はどのようにやっていますか。

依田

学校のグランドが使える月・木・土曜日の2時間で練習をして、水・金曜日が筋トレという流れです。

鈴木

平日は選手だけで、メニューも考えて練習しているのでしょうか?

依田

今は、私からキャプテンに渡した練習メニューに沿ってやっています。現在、正コーチは3人。千葉がスクラムとフロントロー、比企がスクラムハーフ、永井がそれから後ろというように、ポジションで分けてやっています。

鈴木

練習のスタイルに加えてメンタルの部分でも、一昨年よりOB会として支援しているシステムコーチ(※注1)をお願いしていますが、どのような目的で導入し、2年近くが経って、どのような変化がありましたか。

依田

監督1年目は、選手に対して答えを教え過ぎてしまいました。いざ試合になった時に、彼らが自ら考え、判断する力が足りなかったのが、1年目の反省。たまたま中村さんという日体大でコーチング学を学ばれた方と知り合いになり、まずコーチのコーチをお願いしました。我々監督・コーチ陣をコーチしていただき、どういうアプローチをすれば、現役部員が主体的に動くようになるかを学びました。そして次に現役部員へのアプローチです。例えば目標設定とその振り返り、リーダーシップの開発、ワークショップを通じ現役部員の主体性を高めていく取り組みをしています。結果、少しずつ彼らが積極的に声を出したり、他の選手のプレーを見て助言したりと、変化が見られています。目標をたてて、振り返る習慣はちょっとずつ強制的にやっているので、目標設定自体のクオリティも高まっていると感じます。中村さんの導入効果は大きかったと思いますので、サポートいただいたOB会にもとても感謝しています。中等部との連動も第三者の目線で入ってもらっていて、竹内先生、綿井監督が何を考えているかを整理してもらいながら、中高の連動のところにも入ってもらおうかと考えています。

鈴木

監督になられたときから、高等部の現役部員たちのラグビーに対する姿勢や集団スポーツに対する向き合い方など、変わったところはありますか。

依田

少しずつですね。最初はサークル活動のように思っていたのか、自由をはき違えている部員もいました。自由参加、自由解散という感じです。「監督、美容院に行くんで、帰っていいですか?」と、普通に言うようだったので。いまはそういったことは無くなりました。彼らに対して、何のためにラグビーやっているのか、目標は何なのか、と常に問いを投げていますし。大きな怪我にも繋がるので、中途半端にやるのならやめた方がいいということは言っています。無断欠席や遅刻もなくなりました。

鈴木

まずはなによりですね。依田監督も忍耐強く頑張りましたね。中等部の方ですが、綿井監督は、監督になる前から10年近くコーチをやって、監督になってから1年。昨年、監督になってからの様子を教えてもらえますか。

綿井氏(以下敬称略)

中等部はこの3年、大きく変わったのが合同チームという形でやっていることです。今年もその形でやります。そこは顧問の竹内先生も含め葛藤があります。部員たちもそうですし、保護者の方からも。皆さん、単独チームを望んではいますが、結局、カツカツの人数でやっていると、先ほどの高等部の「棄権」というような事態も起きうるので、極力試合ができる機会を失わないように、ということも含め、合同チームという形でやっています。ただ、どうしても合同チームを組んだ時に、練習ができなかったり、試合がぶっつけ本番になってしまったり、なかなか難しいところがあります。一方で、他のチームの子供たちが入ってくると、刺激になるという点もあるのは事実です。青学の中だけでこの人数でやっていると、「上級生になったら、試合に出られる」と思ってしまい、競争という部分が薄まってしまいます。これまでは3年生といえばレギュラーで、2年でも試合に出られるチャンスがあったという形でしたから。でも他が入ってくると、「ひょっとしたら出られないかもしれない」と思うなかで、気づきや成長というものも感じることができている。合同チーム全てが良くないというわけでなく、ある意味良いところも。もちろん単独チームでできることに越したことはないですが、なにより実践の場を持たせてあげたい、なくさないようにしたいという思いです。もちろん、それだけではないですが、青学も人数がカツカツなので、ケガ等々もありえるなかで、他のチームのためだけでなく、合同チームを組まざるを得ないというところです。練習は月・木曜日の平日は2日間。土・日曜に試合があれば活動しています。今携わっているのは竹内先生以外に副顧問の深堀先生がもう一人、現場は私と三本さん、和泉君という久我山出身のコーチがいます。

杉山氏(以下敬称略)

ラグビー部員の人数が少なければ、中高一緒に練習というのは考えられるのではないかと思いますが、そういったことは?

綿井

今は平日にそこまでの交わりをもっていないと思います。

依田

そうですね、ありません。

杉山

練習時間的には、どうですか。

依田

今は、最初中等部がやっていて、後半が高等部です。

杉山

高中別々のクラブ活動なので色々な都合があると思うのですが、直接のコンタクトは中等部と高等部とでは危ないと思いますが、一緒に走る、モールも一緒に組んでみるなど、中等部にしてみればより強い相手と組める。高等部にとっては、先日、初等部とやったタッチフット交流の時のことも踏まえて考えてみれば、依田監督が言うように、教えるということは考えることにつながるので、メリットがあると思いますが、それは最終的には監督お二人で決められることだとは思います。

綿井

高等部と中等部とでも、もちろんそれはやった方がいいと思います。各々でやっていると、アタックディフェンスもままならないので。中等部と高等部でやるのでは、高等部にはあまりメリットはないのですが、やる意味というのはあると思います。けれど、実際にそこに至るまでに、プログラムなどをしっかりと部員たちと共有して進めていく必要があります。ただ「一緒にやればいいじゃないか」という話ではないのかもしれません。

杉山

なるほど。ありがとうございます。

綿井

やれば、なにかしらの道はある。中等部、高等部とラグビー部がある点では、成城だって一緒にやってたり。成蹊もそうですし。そういうところは、青学もやっていった方がいいのではと思います。

依田

私もそう思います。

鈴木

次に強化の話に移ります。残念ながら、過去2年、各大会の試合の結果としては満足のいく結果ではなかったかと思います。まず、高等部は“花園出場”という大きな目標があります。創部以来90年以上達成していない目標です。ただ現状では、依田監督が最後に行って以来、20年以上東京都の決勝進出からも遠ざかっています。過去、青学が強いラグビー部だったということを意識してもらい、現役部員に「花園に行きたい、行くぞ」と、本気で思わせてあげることも重要。依田監督、強い青学にするためにどんなことを考えているか、反省点も含めて今後の方向性や目標をお聞かせ下さい。

依田

大切なことが3つあります。一つ目は『しっかりと目標を持つこと』。クラブとして、なんのためにと言う「大義」「目標」「目的」を持つことが大切。AGR高等部だけの、3年後のビジョンをコーチ陣で設定し、部員にも共有しました。目標が「常にベスト4に入れる実力をつけよう」「高等部を代表するクラブになろう」です。目的、ミッションのところは「高等部のラグビーに触れたすべての人が『勇気』とか『感動』を少しでももらえる人だったり、クラブチームになろう」と。そういうところを目指して動き出しています。

杉山

まさに指導者・リーダーですね。

依田

これをどう浸透させるか、が重要。

杉山

我々OBとしては、常に「花園」と言うのが出てくるのですが、現状では、部員たちにとっては現実的ではないのでしょう。現実的なのは、ベスト8だし。ベスト16だし。OBの皆さんには、花園を期待しているでしょうけれど、まずは現役部員たちが自ら定めた、依田監督から見ても妥当だと思われる目標を達成することから、そこをまずは応援して欲しいですね。

依田

なぜベスト4にしたかというと、常にそこにいればチャンスがあるからです。

鈴木

ベスト4といえば、準決勝ですからね。
その先の決勝、「花園」が見えてきますね。

依田

成城学園も常にそこにいる位置までいきましたから。そこに常に行ける実力や仕組みをどう作るかが重要だと思っています。

杉山

仕組みですね。彼らにそのビジョンを浸透させ、実際に勝ちたいと思った時に、勝たせてあげられるラグビーのやり方などを、強く教えてあげなければならない。そういう気持ちを持ったときに、どのように行動すればよいか考えられるように、今回システムコーチ(※注1)を導入したのもひとつの例だと思います。希望も含めて、監督として部員たちにどのように練習させてあげたいですか?

依田

そこの部分はまだ考えていないのですが、コーチはほぼボランティアでやっているので、千葉、比企、永井、さらに大学生も呼んで、平日に教えてもらおうかと思っています。そういったコーチングスタッフが充実してきたときに、例えば交通費を出してあげられるような仕組みがあると継続的に回っていくのかと思っています。けれど第一には、彼ら選手自身のそこに行きたいという思いや、先ほど言いました主体的であるといったところなのだと思っています。

杉山

それが、ベスト8だと思っている子にベスト4を狙うように、ベスト4なら花園へと思えるように、ということですね。

依田

そうですね。大切なことの二つめは、『主体的であること』。三つ目が『成功体験』です。可能性を感じないと学生は本当に頑張らないので、一つでも成功体験をもたせたい。「勝つ」でもいいし。「体重を何キロクリアした」とか「ベンチプレス」でもいいですし。ちっちゃい成功体験を積ませてあげることを大切にしたいと思っています。

鈴木

中等部はクラブの置かれている立場が高等部とは若干違うかと思います。試合の勝ち負けだけでなく、現役部員の教育的な観点も強いと感じています。また、他校との合同チームとして活動することもあります。綿井監督は大学でもコーチを務め、中等部でも10年近くコーチをされてきましたが、中等部の強化という部分に関しては監督としてどのように考えられていますか?

綿井

コーチを始めたときには、ラグビーのアプローチで入っていった訳ですが、ラグビーを強くするための指導ということが、極端な話、ジャパンのやり方をこの子たちにしたから強くなるということでは当然ないわけです。やはりアプローチの仕方が大切。わたしたちは土日しか見れていませんが、実際に平日、どんな生徒なのか、子供たちの普段からの様子はわからない。グランドではいい顔をしているかもしれないけれど、話を聞けば、学校生活ではあまり良くない子もいたり。遅刻や忘れ物、サボるといったこともあるようで。ラグビーということだけではなく、そういう部分での人間的な成長も大切です。心の成長がないと、ラグビーの成長もないというところがどうしてもあります。教育的見地とラグビーの強化の両方を見ていかなければならない。そのために一番不足しているのは、子供たちとの対話だと私は思っています。土日にグランドで会って、「どうだ?」っていう話はしますが、本当に向き合って、四六時中、普段、なにを考えてどうしたいのかなど、深掘りはできていません。本来はそういうところも見た上で、チーム作りを考えていかないといけない。

鈴木

合同チームで勝つという、青学の部員以外にも、そういう気持ちを持たせることの難しさは?

綿井

そういう点では、ワンチームとして意思統一というのはなかなか難しいです。青学の中だけでも温度差もありますし、そこに他校が入ってくれば違いも出てきます。子供たちが勝ちたいというのはありますが、正直なところ、そこに向けて他のことを犠牲にしてまで賭けるという強い気持ちはまだまだです。

鈴木

中等部としての目標は?

綿井

今、ひとつ明確なのは、関東大会進出です。春季大会で勝ち上がり、ベスト7まずはそこを目指しています。

鈴木

そこは部員たちも、クラブ活動として一つの目標にしているのですね。

綿井

はい、そうです。
その目標に向かって努力しています。

(※注1)いま青山学院高等部ラグビー部では、モダンラグビーの作法に則り、システムコーチ(オフ・ザ・グランドコーチ)とメディカル&フィジカルトレーナーを用意して、チーム・部員のパフォーマンスの向上に務めています。

・中村 貴之 システムコーチ : オフ・ザ・グランドコーチとしてOB会の支援により昨年から導入
コーチのコーチング、チームビルディング、チームミッション / ビジョン策定サポート / リーダー育成サポートなど。
現役部員たちが自ら考え、目標を設定し、行動するようにサポートする役割。

・宮田 雄亮 メディカル&フィジカルトレーナー : 5年前からチームに帯同
ストレングス / フィジカルトレーニングの指導、怪我人のリハビリ、テーピング対応、怪我の評価など。
怪我の少ない、強い体づくりのための栄養学・食事のとり方・トレーニング方法等を指導する役割。