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OB会新体制発足 記念対談

Vol.2 いま足りないもの

〈対戦相手の強さや練習量を知ること、それが自分たちの力量を測る目安になる〉

会長

青山学院では、大学ラグビー部が2024年に100周年。2030年には高中部ラグビー部が100周年を迎えます。高中部のOB会が一新しましたので、チームカラーをはっきりと打ち出し、強化を図っていきたいと思っているところです。今日は、そのためのヒントを伺いたいと思っています。 岩渕さんは高等部3年生のときに東京都大会の決勝まで行って、残念ながら花園にはいけませんでしたよね。そのときに感じたことでもいいですし、その後の経験から身についた視点からでもいいのですが、「青学で足りないもの」、逆にこの部分は「優っている」といったことを教えてください。

岩渕

高校生の頃を思い返すと、花園に行くチームがどのくらいの強さなのか、どのくらい練習をしているのだろうか、ということをもっと知っていれば良かったと思います。 たとえば、わたしの感覚では自分の高校三年間では、2年生のときがチームとしては間違いなく一番強かったと思います。フォワードが強く、全国優勝できるくらいの実力だったと思います。けれど國學院久我山高校に1点さで負けた(20対21)。その年の花園の全国大会を、スタッフの方々のはからいでみんなで観に行ったんです。その時に思ったのは、「もし1年生のときに全国大会を観ていたら、2年生のときに花園に行けていたな。もう一年早く行きたかった…」ということです。やはり生で見たり経験することで、全国レベルといっても大したことない、と思えるようになるんですよ。

会長

OB会でもそういった体験のサポートをしていきたいと思っています。

岩渕

弱いチームだと、強い学校とあまり試合が出来ないということも問題です。わたしが日本代表チームの強化を考えるときに、強い国とどうやって試合ができるかを第一に考えました。 また、高校生にしてみれば、「久我山は明治大学の1年生とやっているらしい」などと聞くと気持ち的に負けてしまう。高校生はメンタルでプレーの振れ幅がすごく大きいですが、自信がつけば振れ幅が小さくてすみます。じつはこれ高校生に限ったことではなく国の代表レベルでも同じです。15年、19年の日本代表は、世界がどのくらいのレベルでどのくらい練習しているか、選手たちはどのくらいの実力なのか、ということを理解してから、大きく成長しました。経験しないとわからないことで心理的に負けてしまうことはいろいろな場面でありますよね。中等部から高等部へ行くときや高校から大学へ行く時、「入ったら大変だぞ」など、いろいろ言われたりするんでしょうが、入ってみて一緒に隣でやってみたら、意外に大したことないというケースも同じです。

会長

大学ラグビー部80人中、高等部出身者はは6人しかいない。今の話がひとつのヒントになりますよね。中学と高校、高校と大学がもっと交わることで、目に見えない壁を低くしたり、取っ払うことができる。我々の代も(鈴木成明副会長がキャプテンだった代)、秩父宮での東京都の決勝まで行ったのですが、久我山に負けて花園に行けないという悔しい思いをしました。当時、芝のグランドが珍しい中、秩父宮の芝生のあの環境、そして多くの観客が入るあのスタンドの雰囲気で浮き足立っていたのではないかと。我々もそういう環境のグラウンドでプレーを経験しておくべきでした。何事も経験に勝ることはない。 実はその年の春に、久我山に練習試合を申し込んでやったんですが、向こうは1.5軍を送って来て、舐められていたんでしょう。伝統校としてのカラーは維持しつつも、他校から「青学と試合がしたい」と思われるチームをつくらないと、全国大会まではなかなかいけない。それには、単発ではなくて、継続していくことの大切さですよね。環境が人を育てるというのもそのとき感じました。

岩渕

思い出しましたが、中学校の頃に東日本大会で試合をしたときに、対戦相手に外国人のコーチがいて「あっちは、外国人がいるぞ!」って。中学生ですからそうなって。その時点でもう負けているんですよ。中学とか高校って特にそういうところがあって、「花園がどのくらいのレベルか」とか、「相手校が今年はすごく強い」というような思い込みでやられてしまう。試合をしてみると、実際はそうでもないのに。

〈言い訳はしない、聞かない、愚痴らない。自分たちで考え、できることを積み上げよう。〉
会長

いま「オールドラグビー」とか「モダンラグビー」とか言われていますが、我々の頃は苦しい中でもとにかく泥臭くがんばるというラグビースタイルで、練習からそういった流れがありました。現在、モダンラグビーでいちばん感じる過去との違いは何でしょう。

岩渕

大きな違いは、コーチングやラグビーのスキル、選手の運動能力がかなり進歩したので、そういう意味でゲームのスピードが上がり、かつ個々の選手に求められるものがより明確になってきていることです。

会長

確かに15人の役割も多様化し、個々のパフォーマンスも確実に高いものが求められますね。 そういう意味で、ワールドカップで日本が外国のパワーのある体格のいい選手たちと戦うときに、俊敏さや器用さなど世界に通じるキレがある。その点で、もしかしてジャパンのチームづくりは、青学のラグビーも参考にできるものがあるのではないかと。

岩渕

それは間違いなくあると思います。日本代表は、W杯では、2011年まで1勝しかできませんでした。そのときは「強いところとなかなか試合ができない」とか「自分たちには身体の大きな選手がいない」などの当たり前の言い訳が多かった。でももう言い訳をしないと決めたんです。その中で自分たちができることをしっかりと積み上げてやっていくことの大切さを実感しました。それがこの10年間で大きく変わったところだと思います。青学もなかなか試合に勝てないことの言い訳が、中学や高校だと「練習時間が短い」、「グランドが狭い」といった話になったり、大学だと「全員が揃って練習ができない」とか。そこは最初からわかっていることなので、それを言い訳にしない方法を何かしら考えていけばいいことです。練習環境だけでなく、プレースタイルにしても、自分たちが勝とうと思ったときに、こうやれば勝てるという明確な何かを打ち出すことが大事だと思います。